やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「怪物」鑑賞感想

ポスター画像

2023年6月公開

監督:是枝裕和

脚本:坂元裕二

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あらすじ:夫を亡くしている早織は小学5年の息子湊を懸命に育てていた。そんな息子がケガをする、服が汚れている、水筒に土が入っているなどのおかしな状態で帰宅することが多くなった。問いただすと担任からやられたのだという。さっそく学校へ行き、抗議したのだが学校側の対応は上辺の謝罪だけだった。いったい何が起きているのか。事態は解決するのか。

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 今のところ2023年作品の中で1位です。かなり良かったです。

 心が元気なときに見たい映画です。精神的にやられました。

 あらすじで書いた内容は冒頭の一部でしかありません。これ以上書いてしまうとネタバレになります。この映画はネタバレ無しでご覧ください。普段ネタバレを全然気にせずに見ているという方もいっさい情報を入れずにご覧ください。そうしなければ作品の『見え方』に大きく影響するでしょう。

 とはいえ、一度見てしまえば、二度目、三度目の鑑賞でまた違った作品に見える、いろいろな見え方ができる映画かもしれません。

 ここから先はネタバレになってしまうので、読んでほしくありません。ブラウザをそっと閉じてください。

 この映画は、母の早織パートから始まりまして、そのあと担任の保利パート、息子の湊パートへと移っていきます。パートによって事件の見え方がまるで変わってしまいます。

 見え方が変わるという点について私の推測を申し上げますと、早織パートのときの保利先生は事件に対していっさい向き合えない、謝罪もできない、人間とは思えない人物のようになっています。しかし、保利パートでの保利は全然そのような様子がありません。校長室で早織と保利が相対している場面が保利パートにないとはいえ、おそらく早織パートでの保利がおかしな人間になっているのは早織視点だからなのではないかと考えています。

 我々観客は、スクリーンに映っていることが真実だと思って鑑賞していますが、この作品に限ってはおそらく早織パートなら早織の眼に映っているものを見せられている、保利パートなら保利の眼に映っているものを見せられているのではないかなと考えています。

 そうなると、保利パートにおける保利という男は自然な笑顔を表せない少しおかしなところもある人物に見えていて、保利パートでそういうふうに見えているなら保利という男は保利自身もわかっている、ということになりますよね。ただ、早織パートの次に入ってくる保利パートはおそらく保利が付き合っている彼女の視点で保利を見ているのではないかとも考えられるわけです。

 この作品は、視点がコロコロ変わっているのではないか、今見ているその場面は誰の視点で見ているのか、少々注意深く鑑賞する必要があるのではないか、と私は考えます。いかがでしょうか。

 さて、「怪物だーれだ」ということで、この映画を見ているとどうしても怪物探しをしてしまいますが、それも完全にこの映画の罠にはまっていますよね。終盤で校長が「些細なことだよ」というようなことを言っていました。誰が怪物なのか、そんなことはどうでもいいのです。

 星川父はどう考えても怪物だろうと私も思っていましたが、冷静になると星川父のほんのわずかな一面しか見ていないので、もし星川父パートがあったなら怪物だとは思えなくなるのでしょう。

 怪物探しよりもっと大切なことがありますよね。

 完璧な母だと思われた早織さんですが、ごく一部では湊くんに言ってはいけないことを言ってしまっていました。保利先生も教師としてはごく普通のようだけれどやはりわずかな失言がありました。そんなわずかな一言が少年を大きく歪めてしまうこともあるのかもしれません。確かに、私も幼い頃に言われたことをいまだに覚えていたりします。とはいえ、そんな些細なちょっとした一言ですら間違えてはならないのなら、子育てなんてできなくなりそうですが。

 事ほど左様にこの映画はいろいろな見え方のできる作品ということで、何とぞ映画館でご覧ください。

 ちなみに諏訪を舞台にした映画多すぎです。また諏訪か。ロストケアとか砕け散るところをみせてあげるとか。