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ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「ヒューゴの不思議な発明3D」を観てきた感想(ネタバレ)


 この映画の邦題はおかしくないですか。原題は「HUGO(ヒューゴ)」です。上の画像がヒューゴ・カブレ君です。彼は劇中、あくまで修理屋としての役割を果たすのみです。

 不思議な発明をするのは上の画像のおっさんです。ジョルジュ・メリエスさんです。

 あらすじ:1930年代のパリ、リヨン駅に隠れて住む少年ヒューゴがいた。彼は駅の時計をこっそり修理しながら、食べ物は売店から盗んで暮らしている。また、彼は父の遺品『機械人形』を直すため部品を駅のおもちゃ屋から盗んでいた。だが、おもちゃ屋のおじさん:ジョルジュメリエスに捕まってしまう。しかも、ヒューゴは大切にしていた機械人形のノートをおじさんに奪われた。取り返すためにおじさんの自宅まで行き、そこで少女イザベルと出会う。イザベルはヒューゴのノートを取り返すことを協力してくれるという。おじさんはノートを返すことを固く拒むが。

 メリエスさんが何を発明したのかという点に注目していきましょう。そこが大切です。この作品は『映画の誕生』を描いたものでした。映画の始まりから無声映画の盛り上がりまでですね。それらは作中で有名な映像を交えながら、この作品は進んでいきます。メリエスさんはその映画の中でもファンタジーSF映画を生み出し、さらに映画に物語を加えた偉大な方だったのです。
 ジョルジュ・メリエスは実在します。
 メリエスはもともと手品師です。ある日、妻と映画:活動写真を観たことで彼の人生が大きく変わります。彼は私財を投じて撮影のためのカメラを生み出し、スタジオを建てます。
 それまでおとぎ話は本を読むか、読み聞かせしてもらうか、というものだったのを映像にしてくれたわけです。この映像も手品のようなものですが。
 ところが戦争が起きるのですね。おそらく第一次世界大戦のことだと思います。戦争は映画ではなく本物であり、舞台がフランスということもあって戦場になり、大勢の男たちが戦場で戦い、死ぬわけです。本物を体験することで世間は虚構である映画から興味を失い、メリエスは映画製作をやめてしまうのです。
 映画製作をやめてしまった経緯が彼にとって暗い過去であり、その過去を掘り起こす原因となったヒューゴのノートに激怒したのです。
 いくらなんでも、自分の映画製作をやめてしまった過去を知られたくないからヒューゴの大切にしているノートを奪って焼いてしまうのはどうかしてるぜ! ノートの返却を拒むのは大人としてあまりよろしくないですよ。
 でも、ヒューゴは、メリエスがそういう過去を知られたくないところをガツガツと踏み込んでいくのです。修理屋であるヒューゴはメリエスという壊れた人間を修理するのです。
 こんなに感動できる作品だとは思っていませんでした。しかも、映画史に深くかかわる作品でもあったのですね。映画を発明してきた歴史を、3Dという新たな発明で私たちに見せてくれたのです。
 駅は大勢の人が行きかう場です。彼らは駅で大勢の人と出会います。そこには新たな人生の出発となる恋愛もあるわけで。そういうところにも焦点を当てつつ、ヒューゴがメリエスを直していく様を描いているのです。熱くて厚い作品じゃないですか。
 作中のメリエスは、ただ単に、「映画が戦争のせいで受けなくなった」と思いこんだだけなんですよね。自分で勝手に妄想しただけなんですよ。病気です。そんな彼をヒューゴが直してあげたのです。最後の、劇場で再び拍手喝采に包まれるメリエスの姿がその証拠です。映画は受けるのです。
 1930年ごろで私が観たことのあるものといえば「メトロポリス」「西部戦線異状なし」「四人の復讐」だけですが、メトロポリス西部戦線異状なしは面白かったです。第一次大戦が終わってしばらく時間が過ぎている頃です。こういう映画が作られているのだから、映画に関心が集まらなくなったというのはウソですよ。
 ほかにも、カフェで老人が犬をきっかけにして距離を縮めたり、ヒューゴを追う公安官が花屋の娘に恋をしたり。公安官がまた泣かせてくれますよ。戦争で足を悪くしているのですから。しかも、任務を優先して花屋をあきらめようとしたり。でも、公安官は花屋と結ばれました。公安官の足についている機械もちゃっかり直されていますしね。
 この作品は多くのハッピーエンドにあふれています。最高じゃないですか。せめて映画の中だけでもこういう幸せにあふれてほしいわけですよ。映画は我々を幸せにしないといけないのです。少なくとも、当時はそうでした。
 今では、むしろ現実を突き付けてくる作品が増えたように思いますが。とにかく、この映画はすっごく明るい映画ですよ。前向きです。どのようにして人々を幸せにしていけばいいのか、という映画ですよ。
 それにしても、イザベル役のクロエモレッツは最近映画に出過ぎです。まだ15歳でしょ。こんな若さで活躍して、それが将来も持続していく俳優はだいぶ少ないような気がしますけど、大丈夫でしょうか。
 あと、舞台がパリなのにすべて英語というのも気になります。
 わあわあ言ってきましたけど、昔の映画を知らなくても大丈夫ですから。信じてください。映画館へ行きましょう。
 そんなこんなで、アカデミー5部門受賞おめでとうございます。
 最後にごめんなさい、「月世界旅行」はまだ観ていません。でも、パブリックドメインになっているから観やすくなりましたな。