やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「ライフ・オブ・パイ(3D・吹替)」を観た感想(ネタバレ)


あらすじ:
 インドのボンディシェリで動物園を経営していたパテル一家は、カナダ・モントリオールに移り住むことになる。16歳の少年パイ(スラージ・シャルマ)と両親、そして多くの動物たちは貨物船に乗り込むが、太平洋上を航行中、嵐に見舞われて船は沈没してしまう。ただ一人パイは救命ボートに逃れて一命を取り留めるものの、そのボートにはリチャード・パーカーと名付けられたベンガルトラが身を潜めていた。わずかな非常食で飢えをしのぎ、家族を亡くした悲しみと孤独にも耐える。そんなパイと一頭のトラとの227日間にも及ぶ太平洋上の漂流生活が始まった。

 単なるサバイバルを描いた作品ではありませんでした。
 ファンタジー映画です。
 まず、インド人のおっさんが穏やかに語っているところから始まります。彼こそがパイであり、少年のとき太平洋で227日間漂流した経験を持つのでした。その経験談を作家志望のカナダ人に語るというかたちの映画です。
 幼い少年は、パリからインドへ移っています。そのインドで彼の成長していく様子が語られます。いろいろな宗教にはまったり、リチャード・パーカーと出会ったり。
 パイはヒンズーのほかキリスト教イスラム教にもはまり、3つの宗教を同時に信仰したのでした。
 学校でいじめられます。しかし、新しい学校へ移った彼はいじめられないために手を打ちます。
 その後、好きな女の子が現れて、そこでパイの一家がインドを離れることになったのでした。
 正直、インドを離れるまでの彼の成長物語はしんどいです。
 語り部のパイおっさんもインドを離れるところで「ここからだ」みたいなことを言いますし。
 船がマリアナ海溝上でひどい嵐に遭遇し、転覆します。日本船だそうです。
 そこからようやく漂流の始まりです。
 漂流の前半は、これから長くなるだろうと予想したパイの準備です。そして、リチャード・パーカーと2人きりになり、日が進むにつれて、物語の行方が彼の心情を映しだすようになります。
 彼の夢を観せられているのか、現実なのかはわかりません。
 ただ、彼が現実だと主張しています。
 そのことがこちらを混乱させます。
 まず、夜の海にクジラが現れる場面です。海水が青く輝いていて、クジラがジャンプするとクジラの体も青く光っています。
 これはおそらく現実なのでしょう。ウミホタルです。
 クジラが出てくる前に、パイが海水をパシャパシャかきまぜると発光していました。この現象はウミホタルだと思われます。
 なので、ここまでは現実です。
 ところが、クジラのジャンプのせいで、彼のボートにあった非常食と非常時用飲料水が海に落ちてしまいました。
 このあと、再び嵐に遭って、島に流れつきます。
 この島は間違いなく現実ではありません。幻か、夢か、妄想か、疲労などによる何かなのでしょう。
 なにせ、植物でできた島であり、太平洋の島であるにもかかわらずミーアキャットが大量に生息しているのですから。しかも、この植物は夜になると魚を溶かすことで自分の養分としているようです。
 その植物は食べることができました。パイが幹をバクバク食べていました。
「昼は与えてくれるが、夜は奪う」パイ談。
 あまりにも長い漂流により、彼は幻想を見てしまったのでしょうが、彼がこれを現実なのか夢なのか判断できていなかったので、こちらも判断がつきません。
 そんな島が本当にあるのかもしれません。
 しかし、しかし、どうやら救命ボートで共にしたトラや、船が沈没した直後にボートに乗っていたシマウマ、ハイエナ、オランウータンはまさかの人間だった可能性が浮上します。
 パイが動物に置き換えたのかもしれません。
 救出されたパイが、唯一の生き残りとして船を所有していた会社から事情聴取を受けます。そこで、沈没直後の様子を2種類話すのです。2種類というところが重要でして。
 船でいっしょだった家族を失った悲しみを消すためにパイがファンタジーにしてしまったのかもしれません。
 幻想と現実の混在ですが、リチャード・パーカーについて疑問があります。漂流の途中、トラが魚を食べていました。しかし、動物園にいたときは肉しか食べていないはずです。
 ネコ科は肉を食べて育つと魚を出されても食べ物だとは認識しません。その逆もあります。
 やはり、このあたりも、リチャード・パーカーが本当にトラだったのか、怪しいところです。実は人間だったのかもしれません。パイおっさんの言ったトラ=パイだったのかもしれません。だからこそ、トラが魚を食べようとしたときそれをすぐには許さなかったのかもしれません。
 また、漂流するまでのパイの成長物語が長かったのも、彼がベジタリアンであり、魚も食べてはいけない宗教を信じているため、トラが魚を食べることも咎められるため、そのことを観客に伝えるためのお膳立てだったわけです。パイおっさんが漂流の話に入る前に「お膳立てはできた」と言いますし。でも、ちょっとくどいかな。
 そういうわけで、不思議な映画です。普通のサバイバル映画ではありませんし、めちゃくちゃ美しい映像を楽しむ映画です。
 3Dで観ましたけど、IMAXシアターで観たらもっとすばらしかったはずです。それくらい映像がすばらしいです。
 IMAXでなければもったいない映画です。3Dの効果は実はほとんどないです。ただ、これはIMAXならもっと印象が違ったでしょう。
 あとは、リチャード・パーカーです。パイがどうにかして手懐けようとします。そのとき、リチャード・パーカーは爪を研ぎます。そのときはさすがにネコみたいでかわいいと思いました。
 凶暴なトラもたまにはネコみたいにかわいい仕草をしてくれるのですね。
 美しい映像:青く輝くクジラと流れ着いた植物の島がおすすめです。(43)