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ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「そして父になる」を観た感想(ネタバレあり)

 2013年10月5日より全国公開。監督、脚本:是枝裕和
 第66回カンヌ国際映画祭にて審査員賞受賞。

 野々村良多(福山雅治)と妻みどり(尾野真千子)のあいだには6歳になる1人息子慶多(二宮慶多)がおり、幸せな日々を過ごしてきた。そんなある日、慶多を出産した前橋の病院から「重要な知らせがある」として呼び出された。出生時に子供の取り違えが起き、実の息子は斎木雄大リリー・フランキー)と妻ゆかり(真木よう子)の間の3人兄弟の長男琉晴(黄升荽)だという。
 ショックを受ける良多とみどりだが、病院側の勧めで斎木家と交流を始め、週末だけ息子を交換するなどした。交換するべきか、それとも今までどおり育てていくべきか、彼らの葛藤が続く。

 病院からの呼び出しがあった冒頭で既に私はため息をついていました。こんな重い話についていけなくて映画館から出て行きたくてしかたありませんでした。重い話から目をそらしてしまいたかったです。
 そのうち、この作品は父親良多が成長できるかどうかを観ていく物語なのだということに気づき、果たして本当に父親として人間として成長できるか不安で不安でしかたなくなりました。ずっとため息をついていました。
 慶多のほうは良多の仕事により裕福な生活を送っています。小学校を受験するという『お受験』をするような家でした。そのお受験も合格して、良多としてはその瞬間までは勝ち続けた人生だったのです。
 ところが、慶多と血がつながっていないということがわかり、そこから良多の敗北が始まるのです。家の格として、斎木家のほうは田舎の電気屋でして、良多は見下していました。ところが、その家の主人である雄大から父親とはこうあるべきで良多は間違っているということを言われてしまうのです。それが正論でした。格下から助言を与えられて大した反論もできず負けているのですが、そのことに納得せず雄大を見下してその場を切り抜けています。そのあとも良多のそういう姿勢が続き、負けを認めず、成長がまったく見られないまま物語は進んでいくのでした。そのことがもどかしいです。
 さて、取り違えの原因が、当時の看護士による故意の子供交換でした。その看護士が弁護士を通じて良多に慰謝料の入った薄い封筒を渡します。良多は封筒を直接看護士に返しに行きました。
 そのとき看護士を見下す形で対面するのですが、看護士の息子が出てきて母親である看護士を守ろうとしました。その息子に対して一切の反論もできずに良多は看護士の家を離れていきました。これが今までにない大敗です。にもかかわらずこの瞬間も良多が成長を見せてくれません。
 良多は裕福な我が家が慶多と琉晴の両方を育てると決意して行動しますが、結局は子供を交換して育てていくことで決着します。当然良多と琉晴はうまくいかず、彼は悩むことになります。そして、琉晴の家出によってついに良多は負けを認め、慶多の良き父親になろうと改心して子供の交換は無しという結末を迎えました。
 良多の周りはみんな人格者というか、人間のできた人たちばかりでした。良多の上司(國村隼)もそうです。上司は、良多を宇都宮に異動させます。左遷のようにも見えますし良多は左遷されたと思っています。でも、上司が「息子と過ごす時間を作るために」と言ったのはウソではないでしょう。上司もまた良い人です。良多だけが悪い人と、私には見えていました。
 何しろリリー・フランキー演じる雄大が、病院から慰謝料を少しでもふんだくろうとしますが、あくまでそれは慰謝料であり、息子との生活は守っているようですし、自宅での彼は、家族の前での彼はとても良い人でしたし。
 作品の設定として、良多の周りが良い人ばかりというのは少しやりすぎかなと思いました。良多が哀れでした。
 息子とのつながりはそれまで育ててきた時間より血のほうが大切だと考えている良多でしたが、私はそうは思いません。息子のいない独身で親に育てられてきた私が言うのも何ですが、子育ては血とかではなくて親による育て方や環境だと思います。だから、やはりこの映画の結末のとおり子供を交換せずそのまま育てていくほうが大切だと思います。生みの親より育ての親です。無事にその結論に落ち着いてくれたし、その結論に至るのだろうと思っていましたが、やはり不安でした。
 とにかく不安ばかりが募る、私にとってはあまりに重い物語でした。ずっと泣きっぱなしでした。とはいえ、最後に慶多を追いかけて話しかける場面も、良多は結局慶多に負けて妥協したように見えるのが残念です。もうちょっと何か具体的な成長がほしかったかなあ。それはこれから父親としてやり直すということになるのでしょうけども。
 ところで、看護士が幸せな野々宮家を見て嫉妬で犯行に及んだと告白していますが本当にそだったのでしょうかね。病院に言わされた気がしますけど。(259)