あらすじ:
酪農を営む小野泰彦一家は日本の長島県大原町で暮らしている。突然M8.3の大地震が長島を襲った。長島第一原発が事故を起こし、原発から半径20キロ圏内が避難区域に指定された。
小野一家はギリギリのところで区域から外れたが、道を隔てた隣は強制的に避難させられた。
かつて東日本大震災で起きた原発事故の政府対応を思い出し、小野泰彦は息子夫妻を避難させる。原発の状況が刻々と悪化していく中、避難区域が拡大されることになった。
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園子温監督作品です。
てっきり福島県で起きたことを長島県という架空の地域を舞台にフィクションとして映画化したものと考えていました。
実際は、「福島の原発事故を思い出せ」というセリフが何度か出てきます。フクシマは過去のこととなっている世界のようです。
原発事故を題材として園子温監督は政府や電力会社批判に出るのかと思いきや、それは私の早計でした。
フクシマにかかわるすべてを批判しています。
原発事故を忘れたい近隣の人々、
電力会社職員、
“放射能”に敏感な人々、
事故を報じるマスコミ、
放射能を気にしない人々、
とにかく何もかもを批判しています。
前半は、小野一家の息子夫婦であるいずみが放射能に異常な対策をとる過程を描きます。いずみは身ごもりますが、そのことが放射能にますます過敏になります。
いずみの行動を異常なものとして描くなんて、予想していなかったので呆気にとられてしまいましたよ。その行動を、町に対する侮辱と受け取る住民の姿もありました。
ただ、後半はやはり政府批判が中心となりました。
「いずみが悪いんじゃない」
そりゃそうです。
もしかしたら今の福島県内がこの映画のような状況なのかもしれません。例えば、福島市内とか郡山市内とか。
さて、注目したい登場人物がひとりいます。
大原町役場の若い職員:加藤です。小野さん宅が避難区域拡大のために退去させなければならなくなったのでそのために小野さんと話し合おうとします。
最初は頭の悪いクズ野郎が出てきたなあと思っていましたが。実はめっちゃいいやつじゃないですか。偉そうに「郷土愛」を口にしますし。はじめはボケてしまっている小野智恵子を笑っていたのに、そのあとは智恵子のボケに付き合ってみせます。
こいつめ。という感じですよ。
それにしても小野老夫婦の最期が衝撃的でした。
小野のオヤジさんが人間的にも強そうではありませんか。この場から動かずに強い意思で生きていくと決意しているのかと思いきや、まさかの自殺です。しかも奥さんを道連れです。そんな弱さを持っていたなんてショックです。それとも、この状況が強い人間を殺してしまったのでしょうか。自殺を選んでほしくはありませんでした。
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園子温監督は嫌な映画を作りますね。エンディングなんて、本当に気分が滅入りました。
毎回、人間をえぐってくる嫌な監督です。次はどんな嫌な映画を作ってくるでしょうか。(32)