やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「コクリコ坂から」を見てきた

 1963年、東京オリンピック前年の横浜が舞台、同じ高校に通う女の子:海と男の子:俊の物語です。原作が「なかよし」連載の漫画なんですね。結論からいくと、面白かったです。劇場で最初から最後まで後ろの女性2人がずっとクスクス笑っていましたがそういう面白さではありません。
 そういう時代だから、高度成長期の日本を舞台とした若者の日常なのかと思いきや、すんげえ重い物語でしたよ。少なくとも私は重く感じました。
 劇中にLSTという言葉が出てきます。それはいったい何でしょう。朝鮮戦争に関係しているらしいですね。ということで調べてみたら、朝鮮戦争時に使用された米軍側の戦車輸送船のことでした。そういえば劇中で輸送船が出てきましたな。それで、なんと、どっちだろ、海もしくは俊の父親がLSTに乗り輸送任務に当たっていたところ、北の攻撃を受けて沈没して死亡していたのです。ここで私が驚いたのは、朝鮮戦争で日本人が死んでいたという事実です。この映画は最後に「フィクションです」と出ますが、朝鮮戦争で日本人が死んだのは本当のようです。しかも、北の告発によると日本人が戦闘そのものに参加して死亡したという!! マジで!? 北の告発に関しては本当かどうかわかりませんが、とにかくLST沈没によって日本人が死んだのは間違いないようでして、これを知らなかったことを恥じました。
 それで、この2人ですが、年頃ですし、出会って意識しはじめて好きになってみたりするわけですね。ボーイミーツガールってやつですか。ところが、2人の間には重大なことが発覚して、2人が苦悩したり。重ーい! 朝鮮戦争といい、太平洋戦争時の親子の別れが関係していたり、重ーい! でも、この2人の突然の出会いから意識しはじめた流れが省かれていたように思いますが、まあ、いいや。そんな2人の関係は複雑で重い話だけど、出てくる人々がみんないい人ばかりですねえ。そういう話は大好きですよ。嫌な思いをしなくて済みますし、憎むべき対象がなくて助かります。
 海という子のあだ名がメルと呼ばれている件、劇中では意味がわかりませんでした。海以外にメルなんて子がいたかなと思ってしまったり、混乱しました。調べてみたら海をフランス語に訳すとラ・メールなんですね。だからメルなんですね。なるほど。この海という子が、ジブリらしい、気の強い、良くできた女の子でして、しかも気が利くんですよ。みんなが洋酒を飲もうということになって、そしたら未成年の海が「チーズを切りますね」だって。気が利きすぎですよ。すばらしいなあ。働き者ですし。
 そんなボーイミーツガールの物語ですが、1963年ということもあり、やや学生運動前夜のような雰囲気も感じました。とはいえ、映画に出てきた彼らには目指すべきゴールがあったと思うのですよ。そのゴールが1980年から1990年あたりのバブル景気とかだと思うのです。もはや戦後ではないと言われた当時、高度成長の中で彼らはゴールへ個々人それぞれがまい進しているように感じました。個々人という言い方にしたのは、劇中の舞台のひとつとなったカルチェラタンという部室棟の中です。カルチェラタンの中で学生たちはそれぞれ一人一人が自分自身の大好きな分野のために個人、個人、がんばっているわけです。雑多で豊富な分野でした。でも、そんな個々人がそれぞれの分野を超えてカルチェラタンの危機のために一致団結していたのです。すんげえかっこいい学生たちです。
 それで、目指すべきゴールが今の10歳〜30歳にあるのかなと考えてみるわけです。一致団結して目指していけるゴールがありますかね。もちろん、高度成長をまい進して到達したゴールで得られたものが本当にすばらしいものだったかどうかは疑問ということにしておきますよ。劇中でも、3色の煙を吐く工場の煙突がありましたし。とにかく、今の日本は個々人が一致団結して目指すものがなくて閉塞的なのかもしれません。
 そんなテーマを汲み取った私は、結局、海と俊の明るい将来がうらやましいなあと思ってしまうのでした。彼らの年齢を考えてみると、思いきり私の世代の親であり、団塊世代だなあ、なんて。
 舞台は、横浜は言うまでもなく本牧付近なのですかね。市電らしきものが走っていますが、当時はあんな電車がこのあたりにあったのですなあ。
 以上です。