19世紀アメリカ合衆国で奴隷解放に尽力した、第16代大統領エイブラハム・リンカーンの、合衆国憲法改正と南北戦争の狭間で苦悩する姿を描く。監督:スティーブン・スピルバーグ。リンカーン役はダニエル・デイ=ルイス。
奴隷制度を廃止するため合衆国憲法修正13条の成立をさせようとするリンカーンの姿を描いています。リンカーンの生涯を描いたものではありません。どのようにして修正13条が成立したのか、そこに集中しています。
成立のためには連邦議会下院全議員の3分の2の賛成が必要です。ただ、リンカーン側の与党共和党議員の賛成だけでは20票足りません。そのために、野党民主党議員の賛成票も必要です。それを実現させるために、リンカーンはどう動いたのか、というお話です。
政治の世界の暗い部分、裏工作をしていく汚い部分が描かれていきます。リンカーンは合衆国で賞賛されてきたような誰もが目指すべき大統領だったのかどうか、ということですね。
ただ、リンカーン自身はその裏工作の指示をするというはっきりとした描写がほとんどありませんでした。彼の右腕のような存在であるスワード国務長官が裏工作を指揮して、民主党議員を取り込んでいきます。その様子をリンカーンは(そのやり方でいいんじゃね?)という感じで見ているだけです。
リンカーンは、行き詰まった場面になるといきなり逸話をしゃべりだして、そこにいる人々の心をつかむというよくわからないことをたびたびやります。その逸話がこの状況にとってどういう意味があるのか、私にはわかりませんでした。
もうちょっとリンカーンがみんなをガシガシ率いていくような展開を欲しかったです。
さて、もうひとつ、リンカーンの息子がやたらと南北戦争へ兵士として行きたがります。当然、リンカーンはそれが嫌ですし、リンカーンのヒステリックな嫁が息子を戦地へ行かずに済むように喚きます。この展開は親子の確執となりますが、作中でこの確執が放置されたままでした。父と子の関係を修復するような場面がないままリンカーンが暗殺されて映画は幕を閉じます。父子の関係を拾う展開が欲しかったです。
日本での上映に限って監督によるコメントが冒頭にあります。「世界の人々に知ってほしいメッセージがある」みたいなことを言いますけど、結局何が言いたい映画だったのか私にはわかりません。
おそらく、史実に基づいた、史実に忠実な映画なのでしょうけど、作品からのメッセージを拾うことをできず、父子の関係が投げられたままで、絶賛するほどの映画とは思えません。(158)