やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「桐島、部活やめるってよ」を観てきた感想(ネタバレ)

 まずは解説です。
 ある高校の日常を描いています。試合を翌日土曜日にひかえたバレー部で、エースの桐島が退部したという知らせが校内を駆け巡ります。
 その描き方ですが、多くの学生の視点から物語を進めていく形になっています。
 発端となる金曜日がひとつのエピソードですが、それを主な学生それぞれの視点で何度も繰り返し観ていくものです。
 金曜日が何度も繰り返されるような感じです。
 『金曜日』は登場人物の紹介ですね。そのあと金曜日の夜からは、『桐島』に振り回される学生たちやその学生の周囲の学生を描いていきます。
 土曜日のバレー部の試合と、日曜日の桐島とは直接関係ない映画部部長を描き、月曜は狂い始めた学内、火曜は怒涛のエンディングです。
 物語そのものは、派手な事件が起こることもない、青春映画です。単純で、誰もが経験していそうな状況を描いています。
 『金曜日』というタイトルが何度も繰り返され、そのあとの土曜日以降は一度ずつで、火曜日も『金曜日』のように異なる視点からひとつのエピソードを観ていきます。
 ちなみに「桐島」は名前だけが出てくるのみで、登場しません。
 原作小説がありまして、それ自体がオムニバスになっているようです。申し訳ないですが、読んでいません。
 監督は吉田大八でパーマネント野ばらやクヒオ大佐を撮っているのですね。
 この映画を観る予定がまったくありませんでした。完全なノーマークでした。しかし、某ラッパーがこの映画はガツンと来るとおっしゃるので公開終了間近になって緊急で行ってきました。
 観て良かったです。
 おそらく今年一番になりますよ、これ。

↑映画部部長。
 私は、彼を応援しました。かなり感情移入しました。『金曜日』では後のほうで出てきます。観ていて何度「がんばれ」と口にしたことか。
 顧問が押し付けてくる脚本を無視して自分たちで納得の行く映画を作ろうとするのですから、大したものです。ボンクラの中のヒーローです。

↑右から桐島の彼女:梨紗、バドミントン部の実果、バド部のかすみ、沙奈。
 梨紗は桐島が何も言わずに部活をやめて学校にも来ず連絡すら取れなくなったことにたいへんお怒りです。
 実果は良い子ですよ。この映画の良心です。バドミントンのうまいかすみや彼氏を持つ梨紗たちにコンプレックスを持っています。
 かすみは映画部部長に気があるような感じでした。日曜日には映画館で偶然映画部部長と出くわしますし。部長の作る映画を観に行くとおっしゃいますし。ところが、実果にも内緒で彼氏がいます。まさかのビッチでした。しかし、少なからず映画部部長の頑張りを認めているような。
 沙奈。こいつはマジでクソビッチでした。男子や実果の悪口を言うわ、桐島のことでイライラする梨紗から桐島のことを聞き出そうとするわ。

↑右から吹奏楽部部長の沢島。目をつぶってしまった男は宏樹。
 宏樹に恋焦がれる沢島は、放課後になると宏樹とその仲間たちがバスケをして遊ぶ様子を眺められる屋上に行きサックスの練習をします。これ見よがしに。
 でも、宏樹は沙奈と付き合っています。
 映画部はその屋上で撮影したいから沢島に移動してほしいのですが、沢島もその理由があるため動きたくありません。文化部どうしがんばれ!
 宏樹は桐島の親友です。なぜ桐島が姿を消したのか、彼にはわかりません。ていうか、なぜ沙奈というクソビッチと付き合っているのか。宏樹は頭が良くて大人びたところもあるというのに。沙奈と付き合ってしまうようなところが高校生らしいかな。

 この映画を観ると、誰もが自分を投影してしまう登場人物を見つけてしまうのではないでしょうか。
 高校といえば、大学進学などなど、多くの人が人生初の大イベントを迎える時期だと思います。
 大人と子供の間の不安定な時期、多感な時期でもあるでしょう。
 そういう大切な、まさに青春ですよ。
 何か特別な事件が起こるわけではない、誰もが経験したことのある、もしくは経験中かこれから経験する予定の日常ですよ。
 桐島がなぜ部活をやめたのか、噂が飛び交う様子なんか、まさに高校生活ですな。
『火曜日』の、「桐島が屋上に現れた」という情報が流れたのでみんなが屋上に慌てて集まってみると、いない。このクライマックスが青春を象徴しています。
 そして、映画部部長がそのときカメラを通して観ていたものですよ。これもまた多感な時期ならではの映像ではないでしょうか。実はけっこう悩んでいたことを露呈させる宏樹の姿も、青春です。
 映画部の撮影風景が「スーパー8」みたいで、映画部部長の話す映画も知っているとニヤリとしますよ。
 配役がすばらしいですし、物語の組立もすばらしいですし、この映画はすごいです。
 映画館へ急げ。