やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「別離」を観てきた感想(ネタバレ)


あらすじ:ナデルとシミンは14年来の夫婦だ。11歳の娘テルメーとイランの首都テヘランで暮らしている。家族は中産階級の上流に属している。ただ、夫婦は離婚の淵に立たされている。シミンは夫と娘とともに国を出たいのだが、ナデルはアルツハイマー認知症を患う父のことを心配し、国に留まりたいと考えている。そこでシミンは家庭裁判所に離婚許可を申請するが、認められなかったため、彼女はいったん夫から離れ実家に帰る。
 ナデルは父の世話のためにラジエーという敬虔で貧しい女性を雇う。ラジエーは短気な夫ホッジャトに無断でこの仕事を得ていた。しかもホッジャトが無職のため家族の生活はこの仕事に依存していた。ある日、ラジエーはナデルの父をベッドに縛りつけ、閉じ込めて出かける。ベッドから落ちた彼は、帰宅したナデルとテルメーに意識不明で発見される。激昂したナデルは、帰ってきたラジエーを怒鳴りつけてアパートの玄関から無理に押し出し、ラジエーは階段に倒れ込む。その夜、ラジエーは妊娠していた胎児を流産してしまう。
 ラジエーとホッジャトはナデルが胎児を殺したとして告訴し、ナデルは殺人の罪で裁判が始まる。

 ついに来ました。私の今年ベスト映画です。
 イランの社会問題を扱っていて国際情勢にもかかわってくるのかなと勝手に想像していましたが、全然そんなことはありません。今やどの国も抱える社会問題を扱った映画でした。離婚と介護問題です。
 ただ、イランなのでイスラム教もからんできます。
 特に、介護問題となると日本では重大な課題となっていますね。誰もが必ずと言っていいほど関係してしまう問題だと思います。
 シミンが出ていって、ナデルが父のために必死でがんばる姿が泣けてきます。私の見方では、シミンはナデルの父よりも自分たちの娘テルメーを選んでしまっています。テルメーしか頭にないようです。お願いだから、ナデルの父のことも心配してあげてほしいのですが。
 さて、この映画は、サスペンスでもありました。
 ラジエーの胎児が死んだ原因はナデルがラジエーを突き飛ばしたためなのかどうかです。それよりも、ナデルはラジエーが妊婦だと知っていたのかどうか。裁判での争点となりました。この映画は、法廷ドラマでもあります。
 私は、すっかりナデルの味方をしていました。ナデルは妊婦だということを知らなったはずで、突き飛ばしてもいないのです。全部このラジエーが悪い! 私はナデルを応援していました。完全にナデルに感情移入していました。
 ここからネタバレですが。
 ところが、ナデルは妊婦であることを知っていたんですね。突き飛ばしたのかどうかについてはあいまいですが。周囲の証言者が証言を翻したり。私はハラハラしました。ナデルは監獄行きにならないようにラジエー側と示談に持ち込みます。
 ところがところが、事件は思わぬ方向へ転びました。
 実は、ラジエーはナデルに突き飛ばされたとされる前日、車にはねられていたのです。はねられた日の夜、激しい腹痛に襲われていました。ラジエーは敬虔なイスラム教徒だったので、そのことを黙っていられず打ち明けます。
 そんなことがあったものだから、ラジエー側もナデル側も不幸せなままとなりました。ラジエー側はナデルから得る示談金でホッジャトのつくった借金を返済しようとしていたのに、それができなくなりますから。ナデル側もこの裁判が原因で家庭内はますます混沌です。
 こんなに後味の悪い作品は久々です。
 さて、ナデルとシミンの離婚問題はどうなるのか。結局、離婚は避けられなかったようです。娘のテルメーがナデルとシミンのどちらにつくのか選ばなければならなくなりました。
 しかし、どちらを選んだのかわからない状態で映画は終わります。この終わり方は秀逸です。すばらしい。どちらを選ぶのか、はっきり言ってどうでもよいのです。テルメーが本当に望んだのは、別れることなくいっしょに暮らすことなのですから。
 この映画、ナデルの介護から、テルメーの選択まで泣かずにはいられませんでした。観てよかったです。