やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「クレヨンしんちゃん超時空嵐を呼ぶオラの花嫁」をがっつりと

 観てきました。毎月1日は1000円ですから。去年は生涯最多の6本を映画館で観て、今年はそれを越えたい(※ただし金返せとなるような映画は絶対に観たくない)なあと思っている今日この頃でした。クレしんの映画を映画館で観るのは映画第1作目「アクション仮面VSハイグレ魔王」以来です。当時の私はまだ小学生……。当時はクレしんにめちゃくちゃはまっていました。その記憶があります。近年では、オトナ帝国や戦国大合戦を高く評価し、臼井先生の訃報に衝撃を受けていたところでした。
 まずは、劇場の雰囲気について。客層はお子様が多いのですが、私のような大人だけで来た人もちらほらでした。クレヨンしんちゃんということでお子様が多くて静かに観られないかもと思いましたが全然そんなことはなかったです。去年仮面ライダーの映画を観たときはさわぐお子様が多くて少々カチンときましたが、今日のお子様は笑ったり拍手したりするものの騒いだり大声出したりしゃべったりはありませんでした。
 郊外のショッピングモールに併設されているシネコンで、家を出るのが遅くてだいぶ焦ったのですが一番焦ったのは駐車場に空きをなかなか見つけられないときでした。おかげで「NO MORE映画泥棒」の直前に着席しました。
 さて、肝心の映画の感想です。ここからはネタバレがあるので注意してください。まずはあらすじです。…………近未来、隕石が落下して地球は巻き上げられた粉じんによって「核の冬」のようになり昼間でも真っ暗なままとなった。東京は海に没して、もともと内陸だった春日部の傍まで海となった。春日部はとんでもなく未来都市となったが外縁はスラム化。その中で、家電メーカーの金有電機(かねありでんき)が家電の明かりによって日本を照らし日本経済を牛耳った。金有社長(会社は社長によるワンマン経営。内閣も社長に頭を下げている模様)は次々と企業を買収、利益が少しでも減るとすぐに切り捨て、自分の娘であろうと利益があるかどうかでしか見ていない。娘タミコは大人となった野原しんのすけと結婚することを望むが、利益につながらないとして反対される。しかも野原しんのすけはOBAKAパワーによって「核の冬」を晴らそうとするが、金有社長にとっては暗いほうが都合がいいから野原しんのすけをバイオなんとかによって拘束する。拘束される直前、しんのすけは「5歳のオラを連れてきてくれ」とタミコにタイムマシンを託し、タミコは過去から5歳のしんのすけを連れて、ついでに風間くんたち4人もついてきてしまって、彼らはどたばたしながら未来で大人となった自分たちと協力し、未来を明るくするのであった……
 以上のあらすじにおける「核の冬」ですが、作品内ではいわゆるモンタージュによって数秒で説明されていました。しんのすけたちが未来のみさえさんとひろしさんに出会ったときに改めてなぜ世界がこうなったのかを説明されます。で、金有電機が隕石衝突の被害を免れて強大になった理由が説明されず、暗いほうが都合がよいという理由もはっきりとは示されません。だいぶ説明が足りない映画となっています。この点が不満です。
 金有社長の手下として結婚(希望)軍団がしんのすけたちの妨害をします。妨害するとき、軍団はしんのすけや風間くん、ネネちゃん、ボーちゃん、まさおくんの顔を散々見たはずなのです。しかし。未来のみさえさん、ひろしさんと出会って金有に連れ去られたタミコを救うためにしんのすけたちが金有のところへ向かいました。建物の入り口では軍団が不審者の侵入を防ぐために監視していたのですが、ひろしさんが風間くんを使って軍団の監視をくぐり抜けようとしたのですが、おいおい待てよ、散々顔を目撃されているはずなのになぜ軍団はしんのすけたちを知らずに通そうとするのか! これはおかしい。この点も不満です。東京が水没しているにもかかわらず東京にあるはずの双葉商事(ひろしさんの職場)の建物がボロボロの状態とはいえ建っていたのもおかしいです。
 作中で描かれたどうしようもなくひどい未来ははたして本当に未来なのか、私はだいぶ疑っていて、夢オチ、パラレルワールド、大人のしんのすけは実は別人、などなどを想像していたのですが、たぶんパラレルワールドとなったのではないでしょうか。最後に、現在へ戻ると落下すると思われた隕石が計算のしなおしで逸れることがわかったというニュースが流れていたので。
 悪い点ではないですが、未来の春日部を走っている電車がなぜ丸の内線なのでしょう。
 大人のしんのすけの顔はいっさい明かされませんでした。でも、タミコが惚れたのだからたぶんイケメンです。声を担当したのは神奈延年という声優ですが、だれ? 知りません。タミコがだいぶかわいかったです。悪いところを指摘した次は良い点を挙げます。まずはタミコの涙ですが、5歳のしんのすけを連れて未来に戻ったタミコは大人しんのすけが囚われた場所へ行ってみると人形みたいになった大人しんのすけが置かれていて、ショックのあまりタミコは泣くのですがそのときの涙が漫画漫画した極太で白い涙なのです。その人形が本当にただの人形だったのですがね。次に、後半、大人しんのすけが爆破されて死んだように思われたけど実は爆破を免れていたとわかった瞬間のタミコの嬉し涙が透明で細い流れだったのです。この違いはよかったかな。また、結婚(希望)軍団に追われてスラム街をひたすら逃げる場面の動きはたいへんよかったです。オトナ帝国で幼稚園バスが大挙して追ってくるスバル360から逃げる場面のような爽快感がありました。しんのすけの「オラは死んでない!」というセリフも感動しました。
 映画13作目「3分ポッキリ大進撃」でもほんの少しだけ未来が扱われましたが、これほどはっきりと未来を描いたのは今回が初めてでしょうか。クレしんの映画はこれまでのテーマとして「家族愛」があったと思いますが、「オラの花嫁」では家族愛の生まれる瞬間である結婚を描いたのではないでしょうか。未来のみさえさんいわく「愛があれば耐えられるもの」だそうです。相手を理解することも大切だけどなんでもかんでも理解できるわけないし少しは我慢しようぜ、という感じでしょうか。
 作品内の未来はド真っ暗で、金有電機から捨てられた人々はますます真っ暗なのですが、これは今の日本を象徴しているでしょう。作中の最初で風間くんたち4人が自分たちの明るい未来を想像して、しんのすけは未来が想像できず子供のままでいいと言うのですが、実際の未来はひどかったわけです。ただ、自分の思うとおりに楽しいと思えることをやれば未来は明るくすることができたのです。それで5歳のしんのすけは「早く大人になるぞ」と決意して終わりますが、本当に自分のしたいことをとことんやり抜け、未来はがんばって切り開け、というわけです。今の日本が真っ暗なのは政府の愚策など人災によるものですが、作中は天災が大きな原因となっていました。その天災だって、楽しく切り開こうというのが大人のしんのすけのメッセージでした。あと、権力者にはもっと反逆しろ(これは私の拡大解釈かもしれない)、とにかく楽しいと思うことを全力でやって未来を切り開け、とのことです。現在の閉塞感漂う日本社会へのメッセージだと受け取りました。金有社長のやり方は非正規を切り捨てる現代のようでもありましたし。
 未来の野原夫妻やシロと出会った場面では泣いてしまいました。そんなに泣くような場面でもなかったのですがねえ。ひどい未来だけどどっこい生きてるという感じで安心したのです。ふたば幼稚園の組長や先生たちや隣のおばちゃんなどは出てきませんでしたが、野原一家と風間くんたちは全員登場して、シロ以外はしっかりと活躍しました。大人のひまわりが登場して活躍した場面では劇場内が私も含めて「おおーっ」となりました。シロはしんのすけたちを助けるまでは至りませんでしたが、だいぶ和ませてくれたので十分でしょう。犬はあんまり好きじゃないけどシロは好きです。あ、そうそう、タミコが海を背にしているとき海から巨大ロボットがタミコを拉致しようとしていたのですが劇場のお子様たちが「うしろ! うしろ!」って言っていたのには吹きました。
 説明不足と設定のおかしい場面があって、その欠点がだいぶ目立つのですが、まあ、一応おすすめです。