やくもとうずしおをがっつりと

ほぼ毎日19時更新。「映画鑑賞感想」は配信やDVDなど自宅で見た映画、『映画「タイトル」感想』は映画館で観た映画の感想です。稀に旅日記をやっています。

映画「第9地区」をがっつりと(ネタバレあり)

 最近私の中でアツい宇多丸さん(映画評論家といっていい方なのかどうか)がかなり良い評価をしている映画「第9地区」、ぜひ観たいと思いました。しかし、地元徳島では上映しないという!! となりの香川まで行かないとだめなんです。それでも私は前売り券を買いました。絶対観に行くぞということで、4月24日土曜日わざわざ香川まで行ってきました。
 もちろん、事前にこれだけ期待させられるとだいぶ不安になってしまうのでした。2時間という長さも不安になる要素のひとつでして、長い映画は基本的にダメなんです。VERSUSとか、だらだら長いばかりで内容がないのです。わざわざ香川まで行って、みんなが褒めるほどでもないなあなんてことになったらもう嫌だ、と思っていたのですが。
 この映画、本当におすすめです。すばらしい。オールタイムベストです。あらすじ:南アフリカ共和国ヨハネスブルグに巨大な宇宙船が飛来、その中には大勢の栄養失調で弱ったエイリアン(通称エビ)がいた。それから20年後、エイリアンはヨハネスブルグに設置された第9地区で貧しく苦しい生活を強いられる。ヨハネスブルグ市民はその状況に怒り暴動を起こすので、エイリアンを移住させようということになったところから話は始まります。
 移住させる作戦の指揮を執らされることになった男が主人公なのですが、この主人公がびっくりするくらい頭悪くて自分本位で、上司がこいつを任命したときはおいおいウソだろと思いました。まあ、でも、自分本位ってことで、これは観てる私を投影しなければならないのか、なんて思ったりしたり。主人公が事情あって人類側から逃げなければならなくなります。妻がいるのですが、その妻に「父さん(主人公の上司で権力あり)の言ってることはウソだ。俺のことを信じてほしい」というのですが、観てるこっちは主人公の事情を知ってるにもかかわらず信じてやれないのです。それくらいの主人公なんです。これは本当にすごい。
 それで、さっき宇多丸さんの「第9地区」に対する批評がネットに上がったということで聞きました。http://www.tbsradio.jp/utamaru/cinema/index.htmlこれでだいぶ、この映画はそういうことなのかなるほどねえ、となってしまいまして、あまり純粋な感想を書けません。本当に純粋な部分だけを書くと、殴られたような感じで、あまりの濃さに本当に気分悪くなりました。まあ、この感想も某氏http://d.hatena.ne.jp/KASUKA/20100411/1270996774と同じ感想なのですが。2時間という長さをまったく感じさせない濃密な映像です。物語そのものは単純明快なのですが、散りばめられた事象のあまりの多さに私はボッコボコです。
 舞台が南アフリカだから、当然エイリアンに対する差別を描くのかと思いきや、そういうふうには見えないんですよ。エイリアンの描き方が汚くてぶっ殺されてもしかたのない連中に見えてしまうのですが、そういう見方をしてしまった私はもうすっかり製作者の意図にはまったのです。私も彼らを差別してしまっているのです。
 映画はグロいので苦手な人は我慢して観ろ。苦手な人にはおすすめしませんとは言いません。グロさも映画の伝えたいことを理解するためには我慢すべきです。それで、傷つくときの痛さも十二分に思い知らされるのですが、後半はその痛さがあまり伝わらないのです。パワードスーツによって人間が次から次へと簡単に風船みたいに死んでいくわけで、これももしかして前半と後半の違いということで何か意図があるのでしょうかねえ。
 南アフリカという国ですが、映画内に出てくるハンバーガーショップはカウンターに鉄柵がありました。強盗対策なのですが、そういう国なのです。この映画を観て思ったのは、「この国でワールドカップやって本当に大丈夫なのだろうか」です。まだ早かったのでは? がんばれ、日本。
 だめなところを挙げるとすれば、なんだろうなあ、エイリアンの背景とかわからなくて謎が多いという点かもしれませんが、それも宇多丸さんのお話を聞いてしまうと納得です。エイリアンのことがわからないんですよ、我々は。そういうことなんです。『わかんない』です。相手のことなんてわかんないです。わかんないところから始まる「相互理解」なんですよ。うおおおすげえわ。ほんとに。
 おすすめです。私は「この食べ物めちゃくちゃおいしい。でも自分だけかもしれないしおすすめはしない」「この映画めちゃくちゃ面白い。でも自分だけかもしれないしおすすめはしない」という自信のない人間ですが、この映画だけは絶対おすすめです。無理強いしてもいいです。また映画を観に行きたいし、DVD化されたらDVD購入したいです。こんな気持ちになった映画は初めてかもしれないし、宇多丸さんの影響もあるかもしれません。
 以上、「第9地区」、おすすめです。